Dr. Tairaのブログ

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子どもの long COVID について保護者が知っておくべきこと

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、気をつけなければいけないのが long COVID(ここでは長期コロナ症と呼称)です。厚生労働省罹患後症状と呼んでいて、日本では一般的にいわゆるコロナの後遺症として知られているものです [1]

しかし、これは後遺症というより、急性症状に続く長期の罹患病態として認識すべきものでしょう。Long COVIDという名称が提唱された理由もここにあります(→"Long COVID"という病気治っていないコロナの病気を後遺症とよぶべきでない)。つまり、後遺症ではなく、継続性のCOVID-19の症状という認識をもつべきです。

単なる後遺症としての認識しかないことに象徴されるように、日本では長期コロナ症についてはあまり関心が向けられていないように思われます。厚労省もきちんと実態調査をやっていないように思います。しかし、COVID-19の本質は、患者の多さから考えてむしろ長期コロナ症にあるという感もあります。

私の知り合いの学生は、長期コロナ症に悩まされ大学の退学を余儀なくされました。40代の友人は長期コロナ症に苦しみ、会社を退職しました。若者や働き盛りの人たちの長期コロナ症は深刻ですが、この問題は将来ある子どもにとっても同様に重大でしょう。しかし、子どもの長期コロナ症になると、ほとんど実態がわかっていないように思いますし、保護者もそれほど関心を寄せていないように感じます。

UNICEFは「子どもの長期コロナ症について親が知っておくべきこと」というYouTube動画を配信しました [2]。イェール大学医学部の小児感染症専門医であるカルロス・オリベイラ博士(Dr. Carlos Oliveira)による解説動画です(下図)。半年前の配信ですが、日本ではコロナ収束気味の風潮があり、文部科学省も「学校でのマスク着用を求めない」とした今だからこそ [3]、このような情報は重要だと思われます。ここで、C. オリベイラ博士の解説の翻訳文を紹介したいと思います。

1. UNISEF配信動画の全翻訳

こんにちは、私はカルロス・オリベイラ博士です。イェール大学医学部で小児感染症の専門医をしています。

●長期コロナ症とは何か?

長期コロナ症とは、別名「COVID罹患後症状」とも呼ばれる症状で、感染後数カ月間、身体的、精神的、社会的健常性に影響を及ぼす症状を経験することを指します。なぜ長期コロナ症を発症する人がいるのかはまだわかっていませんが、学業やスポーツなどの日常生活の能力に影響を与える可能性があります。

症状は、子どもと大人とでは少し違って見えることがあります。子どもや青年の場合、これらの症状の含まれるものとして、激しい活動に耐えられない、不安や胸の締め付けがある、呼吸困難、ブレインフォグとも呼ばれる思考困難があります。より低年齢では、時に嗅覚や味覚の持続的な低下、脱毛、体重減少が起こることもあります。明らかなのは、長期コロナ症を発症したかなりの数の子どもたちが、現在も継続的な症状に悩まされているということです。

●子どもの長期コロナ症はどのくらい続くのか?

子どもは大人に比べて回復が早い傾向にありますが、半年以上経っても症状を感じ続ける場合もあります。しかし、一般的に、子どもの回復期間は、既往症や最初の感染症の重症度によって決まると言われています。ほとんどの場合、子どもは数カ月で回復します。

●保護者はどのようなサインに気をつけるべきか?

子どもが長期コロナ症になると、学校の勉強やスポーツについていけなくなり、これらの活動をさぼるようになることに、保護者の多くは気づくことになるでしょう。以前は積極的にスポーツに取り組んでいたお子さんも、道を歩くのがやっとで、休まざるを得なくなることもあります。

また、「常に疲れを感じる」「筋肉痛がある」「めまいがする」など、さまざまな煩わしい症状があると訴える場合もあります。最も心配な特徴のひとつは、心臓にダメージを与える可能性があることです。心臓の鼓動がいつもより速く感じたり、少し動いただけで息切れがしたり、気を失いそうになったり、意識を失ったりするなどの心臓の症状がないか、保護者の方は注意する必要があります。

また、保護者は、罹患後のストレスの影響に留意する必要があります。これは、小児では、時に非常に気づきにくい場合があります。このストレスの原因となるものはいくつかあります。たとえば、数ヶ月間味覚がなかった子どもは、今まで好きだった食べ物がどうしても食べられないので、食事のたびにストレスを感じるようになります。

また、罹患以前は簡単にできていた作業ができなくなり、とてもイライラしてしまう子どももいます。また、ここ数年の間に家族や大切な人を亡くした子どもたちが多いことも注目すべき点です。子どもの精神的な健康は、このような喪失感によって大きな影響を受ける可能性があります。

●長期コロナ症の子どもには、どのような治療法があるか?

長期コロナ症の治療法は一概には言えませんが、効果的な治療は適切な診断を受けることから始まります。ですから、経験豊富な小児科医に精密検査をしてもらうことが重要な第一歩です。検査は、患者さんの症状や身体検査の結果に基づいて行われるべきです。たとえば、胸の痛みが強い場合は循環器科を受診し、思考力が低下している場合は神経科を受診すべきです。

治療は一般的に、全体的な機能と生活の質を向上させることを目的としており、それぞれの症状に対応することが最も効果的であるということになります。また、長期コロナ症では、気分が良くなるまで実に長い時間がかかってしまうことも、重要な点です。精神的な問題が必ずしも長期コロナ症の原因ではないかもしれませんが、適切に対処しなければ、その症状が徐々に進行し、回復がさらに遅れるかもしれません。

●保護者はいかにして長期コロナから子どもを守ることができるか?

あなた自身とあなたのお子さんを守る最善の方法は、そもそも感染しないようにできる限りのことをすることです。これには、予防接種を受けられるときに受けさせ、物理的な距離を置く、マスクを着用する、換気をよくするなど、お住まいの地域で推奨されている公衆衛生や社会的な予防策を守ることが含まれます。

これらはすべて、感染を減らし、伝播させる可能性を減らすのに役立ちます。

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翻訳は以上です。

2. 文科省の対応

文科省は(厚労省もですが)、子どもの長期コロナ症に関する情報は一切発信していません。一方で、今年4月からの学校での感染対策について新しいマニュアルを通知しました [3]。それによれば、児童や生徒、それに教職員については、基本的にマスクの着用を求めないとしています。その上で、登下校時に混雑した電車などに乗る場合や医療機関、高齢者施設などを訪問する場合はマスクの着用が推奨されるとしています。

また、マスクの着用を希望している場合や健康上の理由でマスクを着用できない児童や生徒に対しては、学校や教職員がマスクの着脱を強いることがないよう求めるとともに、マスク着用の有無による差別や偏見がないよう適切に指導することも求めています。さらに、給食のときの「黙食」は必要ないとしています。一方で、大声での会話を控えるなどの対応を求めています。

今回の新しいマニュアルは、日本政府による5類移行の方針に合わせた、感染対策の緩和の方向での改訂と言っていいでしょう。いつのまにか、コロナは収束気味で、以前よりは感染しにくくなっているという錯覚があるのではないでしょうか。

注意しなければいけないのは、SARS-CoV-2の性質も長期コロナ症を含めたCOVID-19の病態も基本的に変わっていないということです。感染力で言えば、インフルエンザや風邪のウイルスに近づくどころか、逆の方向へどんどん強くなっています。感染力が強くなったウイルスに対して、感染対策を緩和すれば今後どうなるか、火を見るより明らかです。

おわりに

UNICEFの動画解説は、リスクコミュニケーションの基本どおり、問題に対して何をすべきか、何を知っておくべき、がしっかりと押さえられています。感染しないようにできる限りのことをすることが重要であるとした上で、その防止策として予防接種、物理的距離確保、マスク着用、換気を挙げています。

日本のリスコミは全く逆で、「何をしなくてよいか」や観念的なことが優先的に伝えられ、その役割を果たしていません。厚労省の「個人の主体的な選択を尊重し、着用は個人の判断に委ねることになりました」というのも、文科省の「基本的にマスクの着用を求めない」というのもそうです。何をすべきかという基本が優先事項として抜けているのです。

文科省厚労省も保護者も、子どもの長期コロナ症についてはほとんど無関心のように思えます。以前考えられたよりも、長期コロナ症は持続期間が長く、発症時期も遅く出る場合があることが報告されています [4]。その意味においても、感染対策が緩和されたいまということを考えても、長期コロナ症を防止するために一義的に感染しないことの重要性を再認識すべきと思います。 

引用記事・文献

[1] 厚生労働省: 新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kouisyou_qa.html

[2] UNICEF: What parents need to know about long COVID in children. https://www.unicef.org/parenting/health/long-COVID-children

[3] NHK NEWS WEB: 4月からの学校“マスク着用求めず” 文科省がマニュアルを通知. 2023.03.17. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230317/k10014011151000.html

[4] Miller, J.: Who Is Most at Risk for Long COVID? Harvard Medical School News & Research. March 9, 2023. https://hms.harvard.edu/news/who-most-risk-long-covid?utm_source=twitter

引用したブログ記事

2022年4月21日 治っていないコロナの病気を後遺症とよぶべきでない

2020年10月12日 "Long COVID"という病気

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19(2023年)