Dr. Tairaのブログ

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40-50代の重症者が増えているという情報の検証

はじめに

新聞、テレビ各社は、最近、東京都における新型コロナウイルス感染症患者のなかで、40-50代の入院数と重症者数が増えているということを伝えています [1, 2, 3]。小池知事は7月8日の記者会見で、ワクチン接種で高齢者の重症化が抑えられている可能性を指摘し、「陽性者、入院患者は高齢者から50歳代に移ってきた」、「50代問題と言っても過言ではない」と警戒を呼びかまし [3]

これらの報道に対して、昨日(7月13日)、「40-50代の重症者の急増はウソ」というツイートが目に留まりました(以下)。このツイートには、東京都福祉保健局が発表している7月に入ってからの年代別重症者数と「40–50代の重症者増」を伝えるTBSの報道が引用されており、それらを対比させながら「報道はウソでした」と述べています。

このツイートは、千件以上のリツイートと二千件以上の「いいね」ボタンが押されており、それなりに情報拡散しています。

私はこれらの報道やツイートを見ながら、新型コロナに関するウェブ情報リテラシーの弱さを再認識しました。 なぜそう思うかという理由を述べながら、40-50代の重症者が増えているという情報の真偽の程を検証したいと思います。

1. マスコミは何をどのような根拠で伝えたか

まずは、報道の一例として、テレビ朝日が取り上げた東京都における最近の重症者の年代別内訳の推移を図1に示します。この図は、出典元が明記されているように、7月7日に開催された厚生労働省アドバイザリーボード会議の資料に基づいてリトレースしたものです。各社の報道内容もこのアドバイザリーボードの発表に基づいています。

図1からわかるように、6月下旬から7月上旬にかけて、40-50代の重症者が急増しています。他の年代と比べた時にこの増え方の傾きが急であることは誰の目にも明らかです。そして、アドバイザリーボードも東京都の専門家会議も、この傾向についてはっきりと言及しています。

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図1. 東京都における40-50代の重症者の増加を伝えるテレビ報道(2021.07.08. TV朝日「モーニングショー」より).

したがって、マスコミは、この時点においては「40-50代の重症者の急増」を間違いない事実として報道していると言えます。

2. 事実とツイッターでのミスリード

一方、「40-50代の重症者の急増」はウソとした上記ツイートは、7月上旬(7月1日−12日)に限定した情報に基づいています。そこで、東京都福祉保健局の発表データに基づいて、6月20日から7月13日までの重症者数の推移についてグラフ化し、マスコミ報道とツイート内容の真偽を再チェックしてみました。

図2に示すように、6月20日から1週間程は重症者数が減少しており、その後6月26日から7月6日まで増え続けていることが分かります(図2A)。40-50代についての推移をみると、やはり6月26日から増え始め、7月7日までそれが続いていることが分かります(図2B)。60代以上では6月20日からの1週間は減り続け、6月26日から7月7日までは比較的一定の数で推移しているように見え、また7月4日からの約1週間は微増しているように見えます(図2C)。

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図2. 東京都における重症者総数(A)、40–50代の重症者数(b)、および60-80代の重症者数(C)の推移(東京都福祉保健局の報告データに基づいて筆者作図)

図2では、各年代の推移が比較しやすいように6月26日から7月7日の期間に影をつけてあります。要するにアドバイザリーボードやマスコミが言っていることは、この影をつけた期間における40-50代の急増に関してのことであり、その意味では正しいです。

一方、上記ツイートは7月1日以降の数字について述べているのであって、そこに限定すると40-50代の重症者が急増しているようには見えません。そこまでは事実ですが、そこから「マスコミが言っていることはウソ」というと、それこそウソになってしまいます。両者は比べている期間が違うので、一方への見解についてはもう一方は言及することができないのです。

ツイッター上での「マスコミはウソを言っている」というコメントについて、そのまま拡散されているようですが、一次情報をよく確認もせずにリツイートされる結果、いわゆるデマが広がるという怖さを感じます。

3. 重症者の推移で見えること

図2を見ると、40–50代の重症者が増えていることは事実ですが、最近ではその数は落ち着いているようです。小池知事や大方の専門家は、ワクチン接種で高齢者の重症化が抑えられ、その結果ワクチン未接種の40–50代の重症者が増えているという見解を示しています。果たしてそうでしょうか?

気をつけなければならないことは、新規感染者数は1回限りの事例であるので、毎日の数字のダブりはありませんが、重症者数の推移については同じ患者についてのものなのか、違う患者のものなのかが数字を見ただけではわからないことです。そして、回復したり亡くなったりした時点で重症者数としてカウントされなくなります。

たとえば、図2Cの60-80代の高齢者層でみてみましょう。6月20日から6月27日まで重症者数が減少し、その後7月4日まで比較的一定数となり、そして7月10日まで増加してているように見えます。では重症者数が一定である期間(図2Cの影付きの部分)をどのように解釈したらよいでしょうか。

一つの考え方として、6月27日までの減少は第4波感染における重症者に由来するとみなすことが可能です。同様に7月4日から7月10日までの増加は、第5波感染における重症者が現れたものとみなすことができます。そうすると、第4波の減少の続きと第5波の増加の立ち上がり部分ではその二つが重なり、その傾向が相殺されてしまうということが考えられるのです(図3)。

f:id:rplroseus:20210714140006j:plain図3. 東京都における60-80代の重症者数の増減に関する考察.

すなわち、実際は60–80代の高齢者層の重症者も40-50代と同様に増えているのに、数字やグラフ上では、その傾向が見えなくなっていることが考えられます。図2Bと図2Cを比べてみるとわかりますが、現時点での重症者数の増加分は40-50代よりも60-80代の方が多いのです。

40-50代の重症者が増えているのは事実ですが、それは第4波におけるその年代の重症者数が下がりきった状態からの立ち上がりが明確であり、絶対数(例: 図1における6月23日と7月7日の数字)が大きく異なるためにため単純に目立っているだけ、と言えます。

そうやって考えると、高齢者はワクチン接種が進んだために重症化率が減少し、ワクチン未接種の40-50代の重症者が増えているという見解は、現段階ではいささか状況を見誤っているのではないかという気がします。ワクチンの効果が出ていると考えるには、まだ時期尚早でしょう。

確かに、感染者の年代別割合で見ると第4波と比べて、若年層が増えています(図4)。入院患者数や重症者数は感染者数に関係ありますので、より若い年代で重症者が出る傾向にあるのは当然です。ただし、若年層への広がりは、高齢者へのワクチン接種が本格化(2回接種完了)する以前から続いている傾向であり、若年層に感染が広がりやすい、感染力の強いデルタ型変異ウイルスへの置き換わりと感染拡大に関係していると考えた方が合理的です。この点については前のブログ記事でも述べています(→感染五輪の様相を呈してきた)。

専門家やマスコミは、この傾向をすっ飛ばして、現段階で、いきなり高齢者へのワクチンの効果と結びつけるべきではありません。

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図4. 東京都における感染者数の年代別割合(NHK特設サイト「新型コロナウイルス感染症」からの転載図).

全人口に対する2回のワクチン接種が完了した人の割合は、現時点で19%にしかすぎません。高齢者での接種率で言えば約50%ですが、感染拡大抑制に及ぼすその効果についてはまだ小さく、7月中旬以降に顕著になってくるのではないでしょうか。つまり東京五輪が始まる前後から、高齢重症者の伸びが鈍くなり、65歳未満の世代の重症者が急激に増えてくると予測されます。

注意しなければならないのは、ICU治療患者、人工呼吸器装着患者、ECMO装着患者のいずれかに該当すれば重症者という厚生労働省の定義と東京都のそれが異なっていることです。東京都はICUに入っているだけでは重症者と認めていないので、全国的な基準に照らし合わされば、重症者の数は公表数よりはるかに多いですそのことが、重症者の実態を見えにくくしています。

もう一つの注意点は、高齢者は実質重症であっても体力に負担がかかる高度医療(ICU治療)を希望せず、中等症病床で治療する人が多いことです。一方、50代以下の患者は重症化するとほぼ高度医療を受けるので、その分統計的に重症者としてカウントされやすくなっていると考えられます。

おわりに

マスコミによって報道された「40-50代の重症者が増えている」というのは事実です。しかし、それをウソと断定したツイートはデマです。そのようなデマ情報を確認もせずに安易に拡散するSNSユーザーの怖さも感じます。

一方で、「40-50代の重症者が増えている」ことを、安易に高齢者層のワクチン接種の効果とみなす東京都やメディアの取り上げ方にも問題があると思います。絶対数でみれば、60代以上の高齢者についても、40-50代以上に重症者が増えているのです。デルタ型変異ウイルスの感染が若年層に急速に広がっているとみなすべきです。

私は常々、高齢者から順に(40代以上に)ワクチン接種を優先して行なうことを提言してきましたが(→新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える)、まさしくこれは年齢が高いほど重症化しやすいという事実に基づくものです。

政府や都がワクチン接種の促進のために、50代問題として情報を流すのなら、実際にそれに対処するようにワクチン接種を行なえばよいのです。ところが、政府による集団接種や職域接種という思いつきのワクチン戦略によって、「年齢の高い人と基礎疾患を持つ人を優先する」という計画はガタガタになりました。ワクチン供給が滞り、40–65歳の層に打てなくなっています。

40-50歳の重症者が増えるという問題は、それこそ東京五輪大会の始まりとともに深刻になっていくのです。

引用記事

[1] FNN ライムオンライン: 40代、50代が危ない…感染再拡大の東京で中高年の陽性者と入院が増加 五輪期間中には1日1192人にも. 2021.07.08. https://www.fnn.jp/articles/-/207428

[2] NHK NEWS WEB: 東京都 40から50代で重症患者増加 第4波のピーク超える. 2021.07.11. https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20210711/1000067139.html

[3] 読売新聞オンライン: 小池知事「東京のコロナ対策は50代問題」…重症者の4割が40~50代に. 2021.07.12. https://www.yomiuri.co.jp/medical/20210712-OYT1T50227/

引用した拙著ブログ記事

2021年6月26日 核酸ワクチンへの疑問ーマローン博士の主張を考える

2021年6月13日 感染五輪の様相を呈してきた

2021年5月15日 新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる

                 

カテゴリー:感染症とCOVID-19