今日(4月17日)のテレビは、COVID-19対策として、厚生労働省がドライブスルー方式をも含めたPCR検査の拡充の方針を、各自治体に通達したことを伝えていました(図1)。昨日の新聞では、厚労省が15日付で出した事務連絡で、ドライブスルー方式の診察やPCR検査を容認したことを、すでに報道していました [1]。
図1. 厚労省による検査拡充の方針を伝えるテレビ報道(TBS NEWS 2020.04.17).
ドライブスルー方式の検査は、国内ではこれまで名古屋市や新潟市など一部の自治体で行われていましたが、これからは検査体制拡充の対策の一つとして急速に広がっていくものと思われます。しかし、この厚労省による検査拡充の通達も「お願い」の域を出ておらず、都道府県などに判断を委ねる内容にとどまっています。つまり、相変わらずの他者へ丸投げというという国の態度です。しばらくは各自治体で混乱が起きるものと思われます。
ドライブスルー方式は、よく知られているように韓国発祥です。3月4日のブログ記事「国内感染者1,000人を突破 」でも紹介したように、この時点での韓国の感染者数は、今から思えば4,800人を越える程度で少なめでしたが、すでにドライブスルー方式の検査が広がり、感染者のあぶり出しに威力を発揮していました。もちろん、ドライブスルーだけで検査していたのではなく、基幹の発熱外来、選別診療所という検査場所を設置した上での話です。その効果で、毎日の感染者数の発生はすでに減少に転じていました。
ドライブスルー方式はすぐに世界的に広がり、韓国のすぐ後に設置したイギリスをはじめとして、ドイツ、ベルギー、オーストラリア、デンマーク、米国などで実施されています。日本では名古屋や新潟で行われていることは上述した通りですが、これは厚労省が設定した有症状者の条件に限っての検査なので、少し事情が違います。
日本は、世界の流れには逆行して、クラスター発生の感染経路を明確にして連鎖を抑えることに重点を置いてきましたが、ここでの検査は有症状患者の確定に限定されています。この枠組みの中に組み込まれた保健所は、国が作った条件を忠実に守ることに追われ、検査の網を一向に広げられない状況でした。結果として、検査の網から外れた無自覚の感染者による市中感染(不顕性感染)が拡大し、東京都と大阪府で確認された新規感染者のうち、7~9割の経路が不明という事態になりました。
この初動対策の誤りについては、このブログでも当初から指摘、批判しています。いくつかのブログ記事を以下に挙げます。
今日お昼のテレビのワイドショーでは、あらためて韓国と日本の検査をめぐる対策の違いについて紹介し、初動対策の違いがその後の感染拡大抑制の成否を決めたと述べていました(図2)。
図2. PCR検査をめぐる韓国と日本の対策の違いとその後の結果.
そして、4月15日にネイチャー系雑誌に出版された論文は、不顕性感染からの二次感染においては、発症直前において感染力がピークになることを示しました [2]。日本のクラスター対策における有症状患者の確定のため検査方式が、感染拡大抑制という点からは的外れであったことを示すものです。
日本ではPCR検査の行政判断の前線にある保健所は今激務の最中にあり、疲弊感も見えてきています。東京都ではもはや空きベッドを数を睨みながら、患者の受け入れのためだけにPCR検査に限定しているとも聞きます。検査待ちの人たちは数千人に膨れ上がっている状態です。ドライブスルー検査の導入は、このような行政機関の激務を少しでも緩和する方向に向かってほしいと願うものです。
今から1ヶ月前の頃、ドライブスルー方式に「精度が低い」などとい言いながら批判を繰り返していた日本の多くの専門家やマスメディア [3] は、今どういう見方をしているのでしょうか。少なくとも厚労省は、自ら韓国の検査を批判していたことを、今になって翻したということです。
世界保健機関(WHO)で事務局長の上級顧問を務める渋谷健司・英キングス・カレッジ・ロンドン教授は「ドライブスルー方式を認めるタイミングは遅すぎる」と批判しています。確かに、すでに確定陽性者が9,000人を超え、死亡者が190人に至っている今としては遅いです。公表感染者数、死亡者数ともに韓国を抜くのは時間の問題です。
しかし、こういう立場の方が提言する場合は、どうせならイギリスが導入した時点で、日本に進言してほしかったと思います。このような後出しじゃんけんの専門家や著名科学者、沈黙を保つ専門家が、日本には実に多いです。
厚労省は現在もクラスター追跡を重視する方針を堅持していますが、この追跡方式の限界を速やかに認め、検査の網を広げる方向にかじを切り、それを先導することが急務です。
引用文献・記事
[1] 日本経済新聞: 厚労省、遅すぎた追認 ドライブスルー検査やっと始動. 2020.04.16. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58144540W0A410C2EA2000/
[2] He, X. et al.: Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of COVID-19. Nat. Med. (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5
[3] 渡邊康弘. 不確実性は無視? 韓国で新型コロナPCR検査が日本の18倍も実施されるワケ. FNN PRIME. 2020.03.19. https://www.fnn.jp/articles/-/25169
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