Dr. Tairaのブログ

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国内外から信用されない日本の感染の現状

4月3日、在日米国大使館はホームページ上で、日本における新型コロナウイルスの感染者数が増えている現状を受けて、帰国を希望するアメリカ国民は、今すぐ準備するように呼びかけました [1]。これはテレビやインターネット上でもすぐに報道されました [2, 3]

WHOの集計によれば、4月4日時点での米国の感染者数は約24万人(致死率2.4%)に達し、感染者数では世界1位、日本のそれの82倍です。それにもかかわらず、在日米国人に向けて「帰国の準備をせよ」というのは、一つは国際便の運行が減便され、あるいは中止になり、当分帰れなくなることが理由でしょう。これはホームページ上でも述べられています。

そして二つ目の理由ですが、米国大使館は「日本政府は広範囲に検査を行わないと決定していることから、感染の広がりを正確に把握することがむずかしい」とはっきりと述べています(図1赤線部上)。そして、「今のところ日本の医療システムは信頼されるが、COVID-19患者の著しい増加によって、数週間後にもそれが機能していると予測するのはむずかしい」(図1赤線部下)、「基礎疾患のある米国国民が、以前のように治療を受けることができるか分からない」と指摘しています。

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図1. 米国大使館の在日米国人へ向けたCOVID-19に関する情報(2020年4月3日)[1].

要は、米国大使館は日本の検査の方針に懐疑的見解を持ちながら、医療崩壊の予測をしているわけです。前のブログ記事「PCR検査が医療崩壊防止のカギ?」でも述べましたが、ドイツ大使館からも「日本は検査に関してウソをついている」という指摘がありました [4]。どうやら、諸外国は日本のCOVID-19対策の基本方針を信用していない様子です。

検査は感染症拡大防止の第一段階の防波堤です。残念ながら、日本政府はその防波堤を築くことを止め、医療現場に患者を受け入れる条件確定のために検査を使うという、極端に言えば場当たり的な(あるいは調査研究のための?)方針を貫いてきました。感染の実態を把握することなど到底できません。

日本では、感染者の増加にPCR検査がまったく追いついていない状況ですが、それでもテレビなどのメディアは連日、感染者数(正確に言えば確定陽性[患者]数)の増え方が、加速していることを伝えています。

図2に、日本全体における1日当たりの確定陽性者数の推移を示します。とくに3月下旬から、陽性者が急速に伸びていることがわかります。図の最後の4月4日における前日からの増加分は304人、累計は2,845人(WHOの累計では2,935人)です。

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図2. 日本におけるCOVID-19確定陽性者数/日の推移(厚生労働省公表データ[4/4 12:00まで]および[5]のデータに基づいてリトレース).

4月1日、政府専門家会議は、彼らが用いている「オーバーシュート」の定義を、「感染者数数が2、3日以内に倍になるような状況で、これが継続する場合」と説明しました。オーバーシュート(overshoot)には元々そういう意味はないのですが、とりあえず彼らの解釈で考えてみると、この現象は「感染者数が指数関数的に増えていくこと」と言い換えることができます。

そこで、図2のデータから、確定陽性者の増加が顕著になってきた3月後半から現在までの分を抽出して、それを対数変換してみました。それが図3です。3月後半から現在に至るまで、確定陽性者はほぼ直線的に増加しており、指数関数的な増加になっていることがわかります。安倍政権や専門家会議が、記者会見で度々述べてきた「持ちこたえている」という希望的観測とは裏腹に、もう彼らが言うオーバーシュートに入っているのです。

いや、感染の実態が正確にはわからないのだから、いつオーバーシュートに入ったのかさえわからないかもしれません。

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図3. 日本におけるCOVID-19確定陽性者数/日の対数値の経時推移:全てのデータをプロットしたもの(a)と休日等の影響で集計減となっている日を除いたもの(b)を示す. 

恐ろしいのは、このように指数関数的に確定陽性者が増加しているのに、これはあくまでも病院に受け入れる患者を数えている結果にすぎないということであって、背後に潜在する感染者数は見逃されているということです。もはやどのくらい感染が広がっているのか、想像もつきません。とくに東京では、感染拡大に検査が完全に置き去りにされています(→検査陽性率の高さはオーバーシュートのはじまり?)。

国立感染症研究所が中心となって、疫学調査の名目で患者を確定することに検査資源が集中される [6] のなら、それとは別に、民間会社をも含めてPCR検査体制を大幅に拡充し、網羅的に感染者を追跡するバックアップのシステムが必須でしょう。

現状では、PCR検査を拡充しないという誤った方針をいまだに固守し、事実を直視せず、感染を拡大し続けているという厚生労働省の姿勢があります。これには、国内からたくさんの批判が浴びせられているとともに、対策の修正・改善を望む声が大きくなっています。

いまだに緊急事態宣言もせず(小池都知事のロックダウン言及からもう10日経ちました)、具体的経済支援も示さず、時間つぶしに終始する政権の態度は、あきれるばかりです。ひたすら医療崩壊に向かって突き進んでいるようなものです。

安倍総理は「現時点では、まだ“全国的かつ急速な蔓延に”という状況には至っておらず、ギリギリ持ちこたえている状況にあり、少しでも気を緩めればいつ急拡大してもおかしくない。まさに瀬戸際が継続している状況にあると考えている」と述べていますが、気が緩んでいるのは彼自身です。

合理的に考える海外先進諸国が、日本政府の対策・対応を信用しないのも当然でしょう。

今朝、たまたまTBSテレビの「サンデージャポン」を観ていたら、MCの太田氏が「政権や厚生労働省は一生懸命やってる、それを批判するような陰謀論は止めよう、みんな一丸となろう」という趣旨のことを言っていました。精神論で楽観的になるような(極論すれば日本崩壊を促すような)ことは、公共放送で言ってほしくないと思いました。

今までの政府の方針・対策では、「オーバーシュートや医療崩壊を防ぐことはむずかしい」という答えが、すでに出ているのです。精神論ではなく、感染拡大を少しでも防ぐこと、医療崩壊を防ぐこと、国民の命を守るための、実効性のある策が今すぐ必要なのです。

引用文献・記事

[1] U.S. Embassy & Consulates in Japan: Health Alert – U.S. Embassy Tokyo (April 3, 2020). https://jp.usembassy.gov/health-alert-us-embassy-tokyo-april3-2020/

[2] NHK WEB NEWS: 在日米大使館 米国民に帰国準備呼びかけ 新型コロナウイルス. 2020.04.04. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200404/k10012368171000.html?utm_int=nsearch_contents_search-items_001
https://rplroseus.hatenablog.com/entry/2020/04/02/184557

[3] テレ朝news: 在日米大使館「直ちに帰国準備を」日本の状況を懸念. 2020.04.04. https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000180974.html

[4] Japan Subculture Research Center: Germany calls Japan’s coronavirus bluff. Embassy says, “Nippon is lying. Expect a surge of coronavirus cases.” http://www.japansubculture.com/
http://www.japansubculture.com/germany-calls-japans-coronavirus-bluff-embassy-says-nippon-is-lying-expect-a-surge-of-coronavirus-cases/

[5] 東洋経済ONLINE: 新型コロナウイルス 国内幹感染の状況. https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

[6] NIID 国立感染症研究所新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年3月12日暫定版).
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html

                

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