Dr. Tairaのブログ

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新型感染症の検査と対策ー各国の現状に学ぶこと

今日(3月30日)のテレビのニュースは、中国の研究チームによるCOVID-19の感染に関する調査結果を伝えていました [1]COVID-19ウイルスSARS-CoV-2の感染者がその濃厚接触者へどのくらい感染させたかについて調べた結果です。発症者からの感染率が6.3%、無症状の感染者は4.1%だったとして、「感染力に大きな差はない」との分析が示されています。

つまり、感染者の症状にかかわりなく、この病気は移るということであり、あらためてCOVID-19の防止対策の基本を示すものです。

これまでも「感染者の8割は軽症か無症状」、「若者の感染者の多くは症状が軽いか無症状」、「感染者の8割は二次感染させていない」ということが、多くの専門家の間から発信され、あたかも無症状者が他者に感染させないようなあらぬ誤解を与えていたような気がします。

前のブログ記事(SARS-CoV-2感染者の爆発的増大の兆しPCR検査が医療崩壊防止のカギ)でも述べましたが、専門家会議はせっかく「症状の軽い感染者(若年層)が中高年層に感染させる危険性がある」と言っていたわけですから、強調すべきはそこであって「感染者の8割は他の人に感染させていない」というところではなかったということです。そして、「無症状者も含めて二次感染をさせる危険性のある2割の重要性」をもっと国は強調すべきでした。

そこでやはり重要になるのが、検査を通じて、自覚症状のないサイレント・キャリアーを含めて感染者の広がりをいかに早く把握するか、そして隔離するかということです。感染者の増大で手に負えなくなる前に、これを如何にスピード感をもって行うかということです。

ここで、感染症対策としてお手本となると思われるドイツと韓国を例にあげて、COVID-19感染者の推移を日本と比較します(図1)。これまでもドイツと韓国の対策については、このブログで何度か取り上げています。

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図1. ドイツ、韓国、および日本におけるSARS-CoV-2感染者の推移

まずドイツですが、3月以降から感染者が増大し現時点で5万人を超えています(図1左)。深刻なことには変わりありませんが、この国ではホームドクター制度が確立している有利さがあります。申告者を担当医が的確に診断し、積極的にPCR検査へと振り分けることで感染者をすばやく見つけ出し、収容・隔離して重症化を防いでいます。現在、検査数は週当たり50万件以上と言われており、今後20万件/日に伸ばすとされています。現時点で大量の感染者を出しながらも医療崩壊にもならず、致死率も0.7%(図1の時点)ときわめて低いことは驚きです。しかもイタリアに対して医療支援までしています。

次に韓国です。この国は3月初旬に感染者のピークを迎えましたが(図1中)、その探り出しには徹底したPCR検査の実施がありました。ドライブスルー方式やウォーキングスルー方式と言われるような、市民が簡単に申告して検査を受けられるシステムまで作り、トリアージによる重症者と軽症・無症状者の分別収容を行っています。その結果、非常事態宣言を出すこともなく、医療崩壊を防ぎ、そして感染者は減少に転じています。検査数は当初日本の20倍を超えました。

しかも予防措置として検査結果は情報公開され、誰がどこで感染し、誰と濃厚接触したか、スマートフォン上でチェックできるようになっています。入国者は、国籍に関わらず個人の追跡用アプリのダウンロードが義務付けられており、感染した可能性がある場合に位置情報で追跡できるようになっています。つまり、監視アプリで感染状況を把握できるようになっているのです。

韓国の例をみていて思うことは、やはり検査を徹底して感染者の増大を早めに抑え込むこと、そしてそれらの情報公開が、感染者減少に繋がる重要なことだいうことです。日本のテレビはドライブスルー検査方式などについては割と報道していましたが、なぜか、感染者拡大の抑制に成功している韓国の状況については伝えていないようです。

日本では方針として「感染のピークをできるだけ遅らせて..」という声が専門家から頻繁に聞かれます。確かに日本の感染者の増え方はダラダラと続いて後ろにズレているようにも見えます(図1右)。しかし、そもそも検査を控えめにしているので、感染者の実数については過小評価されているといったところでしょう。

韓国の例を見れば、「感染のピークをできるだけ遅らせて..」という方針は「感染のピークをできる限り低くして..」と言い換えるべきでしょう。感染のピークを遅らせても、そのピークがオーバーシュートしてしまえば何の意味もありません。医療崩壊を防ぐためには、ピークをできる限り早く低くすることが基本であること、それが答えとしてもう出ていると思います。

スペインやイタリアの現状をみたら、検査の重要性がより理解できます。すでにテレビなどでも報道されているように、両国では初動対策が遅れ、感染者増大にPCR検査が追いつかず、医療崩壊を招いてしまいました。米国でもやはり初動対策が遅れました。世界最高の感染症専門組織である米国疾病センターCDC自身が、PCR検査と感染者の把握の遅れを認めています。

フランスでは感染者が増えるにつれて重症者に絞ってPCR検査を行なっていましたが、WHOの勧告にしたがって方針転換し、いま検査を広げています。

そこで、日本におけるPCR検査の状況をもう一度詳しく見てみたいと思います。厚生労働省のホームページにある、機関・組織別のPCR検査数の推移を図2に示します。図を見ると、初期こそ国立衛生研究所が主体的に検査を行なっていたものの、その後の大部分の検査は、各都道府県の地方衛生研究所(地衛研)と保健所が担っていることがわかります。

3月27日時点での累積検査数は49,724件であり、このうちの約82%に相当する40,729件が地方の機関での検査です。Our World in Data (OWID) のデータでは、3月20日時点での日本の検査数は、韓国のそれの1/21となっています(この差は現在小さくなっていると思います)。日本の検査数がいかに少ないかを示しています。そして、民間会社の検査数が依然として非常に少ないことが示されています。日本での直近5日間の検査は1日当たり1000件ちょっとであり、ドイツや韓国とは比較になりません。

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図2. 日本の機関別におけるPCR検査の数の推移(2020年2月18日-3月27日):右の鉤括弧内の赤数字は保険適用の検査を示す(3月30日時点における厚労省公表資料に基づいて作図)

図2を見ると検査数が1週間ごとに落ち込んでいることがわかります。多くの機関が休日に検査を行なっていないことを現しています。ということは週明けは感染者数が少なくなることが予想されます。事実、今日月曜日の東京都の新たな感染者数は13人と発表され、昨日に比べて大幅に減少しました。これは検査が持ち越されているためのバイアスです。

次の都道府県別のPCR検査数のトップ12を並べてみました(図3)。人口が多い東京都や愛知県などで、それと集団感染を起こした北海道、大分県和歌山県で検査件数が多くなっていることがわかります(図3左)。

特筆すべきは、都道府県における検査で現れた陽性率の違いです。陽性率の高さで目立つのが東京都(16.2%)、低いのが和歌山県(1.2%)です。和歌山県は国の方針に従わず徹底的にPCR検査を行い、初期に見られた集団感染からそれ以上の感染の広がりを抑えることに成功し、現在では感染ゼロを達成できています。濃厚接触者に素早くPCR検査を広げたことで、きわめて低い陽性率になっているのです。

一方の東京都の陽性率の高さは、明らかに検査控えによるものだと思われます。東京都では感染者が急速増加の傾向にあり、とくに感染経路が不明な陽性者が多くなっています。検査控えで結果的にサンレント・キャリアーが多くなり、もはや追跡することがむずかしくなっているのです。感染者の爆発的増大の危機にあると思われます。

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図3. 都道府県別のPCR検査数(トップ12)(左)と陽性率(右):大阪府、千葉県、神奈川県は複数の件数をカウントしているため(厚生労働省による)図示せず

日本では集団感染発生(クラスター)の検出に注力していますが、すでに取りこぼしが起こり、東京では半数以上が感染経路が不明となっています。感染経路不明者の増大は、クラスター対策の崩壊も示すものです。

これを補う方法としては、やはり検査の拡大です。たとえば、検査を容易にするドライブスルーやウォーキングスルー方式の検査外来の設置とその後の民間会社での検査は、きわめて有効であると思います。ただ日本の現状では、これを実施する能力が政治的にも技術的にもきわめて低いです。

パンデミック宣言時から私がこのブログで述べてきたこと(記事:パンデミック )は、テレビを通じて見聞きする白鴎大学岡田晴恵教授の提言とほぼ重なります。以下のことを至急政府は行うべきと考えます。

●民間も含めて感染症の検査体制を大幅に拡充する

●発熱外来を設けてそこで検査を行う

トリアージを徹底するー軽症者・無症状者を緊急に医療を必要とする重症者と分けて別施設(あるいは自宅)に隔離する

要するに検査・医療の役割分担を徹底して、医療崩壊を防ぐべきです。軽症者を重症者と分けて隔離する方策について、小池都知事と安倍首相が話し合っているとテレビが報じていましたが、早くやってほしいと思います。

最後にOWIDで述べられている「なぜ検査が重要か」という一節をそのまま図4に載せます。ちなみにOWIDは、地球規模での問題を大規模なデータとともに取り扱う科学的情報のオンライン出版ウェブサイトです。

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 図4. OWIDで述べられている検査の重要性

とくに赤線の部分に示すように、「検査は、感染者が他者への感染の拡大を防ぐための判断の手助けになる」と言っています。検査をやる、やらないこと自体で騒いでいる日本は実に不思議な国です。

現政権は「今が瀬戸際」と言うなら、検査・医療体制の強化、具体的な国民への経済支援とセットで、緊急事態宣言と人の隔離=接触削減の宣言を、今すぐに行うべきと考えます。

引用文献・記事

[1] テレ朝NEWS: 中国の研究チーム「無症状でも感染力強い」2020.03.30. https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000180398.html

[2] Ortiz-Ospina E. and Hasell, J: How many tests for COVID-19 are being performed around the world? Our World in Data. March 20, 2020. https://ourworldindata.org/covid-testing 

               

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