Dr. Tairaのブログ

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ゴマダラチョウの受難-3

私が昆虫の定点観察をしている都市公園の一つとして、千葉県柏市しいの木台(旧昭南町)にあるしいの木公園があります。昆虫の観察といっても、この公園は近隣公園と街区公園の中間くらいの小さな公園(1.2 ha)で、ほとんどがスポーツなどのレクリエーションで利用されています。草木の多様性はなく、昆虫の種類・数ともきわめて少ないです。いわゆる緑の砂漠の典型的公園です。
 
にもかかわらず、私がこの公園に注目する理由は、ツツジの植栽に混じって、あるいは周辺に零れ種で生えてきたエノキの低幼木が少しあり、アカボシゴマダラのみならずゴマダラチョウの幼虫を発見しているからです。
 
写真1は、公園内テニスコートの南側に生えたエノキの低幼木2本(矢印)を示します。一つは樹高1.7 m(写真1左)、もう一つは約1 mです(写真1右)。2本はお互いの距離から考えて一つの根っこから生えてきているものと思われます。
 
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写真1
 
おもしろいのは、小さい方の幼木からは毎年アカボシゴマダラが発生しているのに対し、大きい方の幼木の根元からはゴマダラチョウの幼虫が見つかることです。写真2には、大きい幼木の幹と小さい幼木についたアカボシのサナギの抜け殻が見えます。
 
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写真2
 
この公園にはゴマダラチョウが好むエノキの成木はありませんが、半径1 km以内には数本のエノキの大木があり、その半数から幼虫を発見しています。夏にゴマダラチョウの成虫が飛来して、写真2の幼木に産卵しているのでしょうが、このような幼木からゴマダラチョウが見つかることはそう多くはありません。
 
今年も低木の根元の落葉にゴマダラチョウの越冬幼虫の存在を確認していました(写真3)。下草に守られて風に吹き飛ばされることもなく、ジッと落葉の下で冬を耐えていました。

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写真3
 
ところが今日ここを訪れてびっくり、なんとエノキの低幼木がすっかり消えていました(写真4矢印)。
 
イメージ 3
写真4
 
近づいて見ると根元からバッサリ切られています(写真5)。しかも下草も刈られ、落葉もすっかり除去されています。市の担当課かあるいは付近の住民が伐採・除去したものと思われます。
 
誠に残念ながら、ゴマダラチョウは藻屑と消えてしまいました。
 
イメージ 4
写真5
 
しかし、なぜこの場所のエノキを伐採する必要があるのでしょうか? 枯れ木と思ったのでしょうか。公園の北側にある樹高2 mの幼木は伐採されず、そのままになっていました。不思議です。
 
この伐採された幼木を最初に見つけたのが5年前です。少なくとも5年以上はこの場所で育っていたわけですが、適宜上部が剪定されるだけでこれらの木自身は1-1.5 mの樹高で保全されていました。しかし今回根元からバッサリ切られてしまい、この自然の歴史が抹消されてしまいました。人間の手によってまたゴマダチョウが消滅したというわけです。
 
これでこの秋冬私が遭遇したエノキの伐採現場は、幼木で都市公園6ヶ所、成木で里山隣接地域4ヶ所です。落葉の清掃・除去に至っては枚挙にいとまがありません。この中で都市公園2ヶ所と里山隣接地域3ヶ所は、ゴマダラチョウ幼虫の生息を確認していたところです。