Dr. Tairaのブログ

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エノキの伐採に思うこと


ニレ科の樹木であるエノキCeltis sinensis var. japonica) は日本を含む東アジアにおける代表的な落葉広葉樹です。樹高は20 mにもなります。塩害に強く、公園樹、庭園樹、風致木としても利用されていますが、公園における植樹といえば圧倒的に常緑樹が多いようです。

エノキの実は多くの野鳥が好んで食べます。メジロ、ムクドリ、オナガ、ツグミ・アカハラなどのツグミ類がよくやってきます。 昆虫では、テングチョウ、ヒオドシチョウ、ゴマダラチョウ、アカボシゴマダラ、オオムラサキなどの食草となるほか、タマムシなどもやってきます。というわけで、生物多様性への貢献度は非常に高い樹木であると言えましょう。

上記のように、エノキの実は鳥によって運ばれるために、容易に零れ種で至る所でエノキの幼木が発生します。そのせいか、道端や公園などで発生するエノキは雑木として伐採の対象として扱われることが多いようです。

今日訪れた場所はすぐ近くに雑木林があり、樹高2–4 mのエノキの低木が道路に沿って生えているところで、低木には珍しくゴマダラチョウの幼虫の発生を確認しています。それだけにとても貴重です。

しかし、訪れてびっくり、何とエノキの低木全部が伐採されていました(写真1、2)。道路に少しせり出していたので邪魔だったのでしょう。苦情も出ていたのかもしれません。

イメージ 1
写真1

イメージ 2
写真2

伐採の権利は土地所有者や管理者にあるので致し方ないところですが、誠に残念です。

次に上記の場所に近い公園のエノキ低木を見に行きました。ここもゴマダラチョウの幼虫がいるポイントであり、これまで経過観察を行なってきました。しかし、これもビックリ、根元からバッサリと切られていました。しかも根元周辺の落ち葉も掻き出されていて、観察してきた落ち葉がすっかりなくなっていました。

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写真3

前のページでも紹介しましたが、自治体の公園の植栽管理においてはできる限り初期設定に戻そうとするクセがあります(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16552846.html)。そのため、後からケヤキやエノキなどが生えてきても伐採されてしまうことが多いようです。

そして土地開発や道路管理などでもすぐに生えてくるエノキの幼木や低木は切られてしまう運命にあります。ときには土地開発の際に大木も伐採されてしまいます。これらを目撃するにつけ、日本におけるゴマダラチョウの個体数の減少は、明らかに人為的な原因によるものが大きいと言わざるを得ません。

ある程度の規模をもつ都市公園里山に近い公園はゾーニングを考え、生物多様性という視点からの管理区域を設けてもよさそうなものです。しかし、どうやら自治体の多くは、少なくとも都市公園に関してはこのような管理方針はないようです。ゴマダラチョウの減少をアカボシゴマダラのせいにする前に、一考を案じたらと思うのですが。