Dr. Tairaのブログ

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ゴマダラチョウの幼虫


ゴマダラチョウ Hestina japonica はタテハチョウ科の在来種であり、種形容名の"japonica"にそれが現れています。昔はよく飛翔する姿を見たものですが、今ではすっかり個体数が少なくなってしまいました。

私は、ゴマダラチョウ同じくエノキの葉を食草とする特定外来種アカボシゴマダラ Hestina assimilis との間に競合があるかどうかに興味があり、関東各地、そして愛知県や福岡県において成虫や幼虫の探索を続けています。

前のページで紹介したように(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16549692.html)、定点観察を続けている近くの公園の植栽の剪定・伐採と枯葉の清掃が今日完了するということを聞いて、早朝から公園に向かいました。この公園にはたくさんのエノキの幼木と少しばかりの成木があり、アカボシゴマダラが発生することがわかっています。

一方で、私はこの公園ではゴマダラチョウの成虫も幼虫も目撃したことがありません(ただし小学校の先生による目撃情報あり)。これだけエノキがあるのに、本当にゴマダラチョウはいないのか、今日が今年ラストチャンスと思い、必死に探しました。

前のページでも述べましたが、もう大部分のエノキは根元から伐採されていました。写真1左に示すように、2日前までは道路沿いのツツジの植栽を覆うようにたくさんのエノキがありましたが、すっかり刈られていました(写真右)。下の落ち葉も掻き出され、集められていました。

イメージ 1
写真1

写真2左はアカボシゴマダラの幼虫がたくさん見つかったエノキですが、ここもすっかり伐採されていました(写真2右)。落ち葉をひっくり返しながら幼虫を探してみましたが、アカボシが3頭見つかったのみでした。

イメージ 2
写真2

伐採されていないエノキのエリアがまだ少し残っていたので(写真3左)、業者が来る前に探索を終えようと思って葉上、幹、落ち葉を必死に探しました。ちなみに2時間後には伐採されて、写真3右のようになりました。落ち葉もすっかりなくなっています。

イメージ 3
写真3

枝葉を掻き分けながら探していると、エノキ幼木の幹に幼虫がへばりついているのが見えました(写真4)。形態、模様から明らかにゴマダラチョウの越冬型とわかりました。高さ22 cmの位置です。

イメージ 4
写真4

写真5に示すように、ゴマダラチョウの幼虫に特徴的な背部の3列の突起が見えます(アカボシは4列)。また、側面の破線模様がアカボシより出やすいのも特徴です。一方で、尾部の二つの突起は、通常開いていることが多いですが、この個体はアカボシと同様に、ほぼ閉じていました。体長は22 mmとアカボシの越冬型よりも大きめでした。

イメージ 5
写真5

幼虫はとりあえず回収してエノキのあるところに移そうと思って物色しながら、業者が集めた枯葉をトラックに積むところに通りかかりました。そしたら、落ち葉がトラックから溢れて落ちたところに動くものが見えました。

何とゴマダラチョウの越冬型幼虫です。急いで地面から拾い上げ、回収しました(写真6)。この幼虫も尾部の二つの突起が閉じています。体長も22 mmと同じでした。

イメージ 6
写真6

ゴマダラチョウの越冬型幼虫がいたエノキの枝の枯葉には、蛹の抜け殻がついていました(写真7)。高さ63 cmの位置です。残念ながら比較的大きいことと、尖のある形態からアカボシゴマダラの抜け殻と思われます。

とはいえ、今回ゴマダラチョウの幼虫が見つかったことは収穫です。

イメージ 7
写真7

今回この公園で見つかったゴマダラチョウの幼虫はわずか2頭であり、アカボシゴマダラの数と比べると1/30くらいにしかなりません。しかし、これはアカボシがゴマダラチョウを押しのけて繁殖しているということではなく、やはり両者の元来の繁殖力の差にあるのではと推察されます。なぜなら、この公園にはエノキの幼木が豊富であり、食草をめぐって競合が起きているとは考えにくいからです。

一つ気になるのは、今回のような公園内の植栽の剪定やエノキの伐採によって、人為的な選択圧がよりゴマダチョウの方へかかっているのではないかということです。現にエノキが伐採され、落ち葉が回収されて、まさにゴマダラチョウの幼虫が駆逐されようとしていた現場に今回遭遇しました。

ゴマダラチョウはアカボシに比べると幼虫の存在形態範囲が狭く、一般的に葉上か落ち葉の下かしかありません。人間による伐採、落ち葉(とくに高木根元の落ち葉)の清掃・除去により犠牲になるのはゴマダラチョウの方が圧倒的に多いのではないかと推察します。ゴマダラチョウの減少をもたらしているのは、結局人間活動に負うところが大なのでないかと、今回の調査、観察で感じました。

一方、アカボシの場合は、環境ストレスや人為的選択圧を凌駕するほどの繁殖力を身につけているということでしょう。都市の住宅の庭にある独立したエノキの低木(1-3 m)の幹を見ても結構な頻度でアカボシの越冬型幼虫を見つけることができます。都市に適応しているとも言えます。

上記の公園内での落葉の下でじっと耐えているであろう残りわずかなゴマダラチョウの幼虫は、越冬後どうするのでしょうか。春が来ても食べるエサがほとんどありません。