Dr. Tairaのブログ

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世論調査に見る男女・世代間のギャップ-3


このブログでは、これまで2回にわたって「世論調査に見る男女・世代間のギャップ」というタイトルで、男女間および異なる年齢層の間にある政治的思考性の違いについて紹介してきました。この傾向から、世論調査にある内閣支持率政党支持率を一元的に見ることによって生じるバイアスについても述べてきました。

世論調査に見る男女・世代間のギャップ-1
世論調査に見る男女・世代間のギャップ-2

今月16日、朝日新聞の7月分のRDD調査結果が発表されました。それによると、インターネットやSNSをニュース源として利用する世代ほど、内閣支持率が高いという結果が得られています [1]。傾向としては、若い層ほどインターネットやSNSを、年齢層が高いほど新聞を情報媒体として利用していることが示されました。

この調査結果は非常に興味深いですが、この新聞報道を見たただけでは、これまで見られてきた男女間の違いがあるのかどうかはよくわかりません。そこで、同新聞の一次調査データ [2] に基づいて再分析し、とくに男女の世代間でメディア利用性に差異があるか、検証してみました。つまり、若い世代は、男女共にネット情報により感化されているかどうかということです。



まず、今月の安倍内閣の支持率は38%、不支持率は43%でした。過去半年分(1-6月)における平均値は支持38%、不支持43%ですので、朝日新聞のデータを見る限り、今年前半という期間でほとんど変わっていないことがわかります。

これらを男女別および年齢層別に見たのが図1です。

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図1. 男女別および年齢層別による内閣支持率:7月と過去半年間の平均値の比較(朝日新聞RDD調査データ [2]に基づいて作図)

ここからわかる傾向をまとめると以下のとおりです。

男性
内閣支持率は60-69歳層を最低として、最年長層および若年層の両側に行くにつれて高くなる
内閣支持率は若年層(18–39歳)で最も高い
女性
内閣支持率はすべての年齢層で同様な傾向を示すが、今回(7月)の調査では、若年層で高くなっている
男女間
内閣支持率はすべての年齢層において男性の方が女性よりも高い。


2. 男女別、年齢層別にみるメディア利用性の違い

朝日新聞の今月のRDD調査データに基づいて、男女別、年齢層別に「ニュースにおいて参考とするメディア」を示したのが図2です。

すでに新聞報道にもあるように、男性においては若年層ほどインターネットやSNSを利用する割合が高いことがわかります。18–39歳層においては、両方のメディアを合わせて平均72%の利用率に達しています。また、年齢が高くなるほどテレビに加えて新聞の利用の割合が高くなっています。

一方、女性においては、若年層(18–39歳)でインターネットやSNSの割合が増えているものの、すべての年齢層においてテレビの利用性が最も高いことがわかりました。これは新聞報道だけでは見えていない傾向です。また、男性と同じく、年齢が高くなるほどテレビに加えて新聞の利用性の割合が高くなっています。

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図2. 男女別および年齢層別によるニュース源としてのメディアの利用性の百分率(朝日新聞RDD調査データ [2]に基づいて作図)

図2に示すように、18-39歳の若い世代は、インターネットやSNSをよりニュース源として利用している傾向がわかりましたが、その利用率は男性(72%)と女性(43%)で開きがあります。、また、テレビの利用率については、同世代で女性の方が2–3倍高くなっており、やはり男女間の差異が見られます。

男性
●若年層ほどインターネット+SNSの利用性が高く、年齢層が高くなるほどテレビに加えて新聞の利用性が高くなる
女性
●年齢層に関わりなく、テレビの利用性が最も高い
男女間
●18-39歳層において、インターネット+SNSの利用率およびテレビの利用率に最も差がある(女性の方がテレビの利用率が高い)


3. インターネットおよびSNSの選択圧からくる政治的思考性

私は、上記の2回のブログ記事で、とくに若い男性が内閣を支持している理由について、インターネットやSNSの選択圧による影響を推察しました。今回の朝日新聞の報道 [1]および私自身による今回の分析結果を見て、ますますその意を強くしています。

つまり、必ずしもメディア活用能力が高いとは言えない若い男性世代が、情報端末さえあれば簡単に得られる、時として過激な主張や情報を、安易かつ無批判に受け入れてしまっている状況が伺われます。このような、若者の傾向には、考えることや批判することをしない「とりあえず現状肯定型」や、世界に目を向けることがない「内向き日本追求型」があることも、すでにウェブ上の記事で指摘されています [3]

とくに、「まとめサイト」や「まとめブログ」なども含むヴァイラル・メディア(viral media)の影響は、無視できない状況になっているのではと推察されます。ヴァイラル・メディアは、その名のとおり"感染性"や"拡散性"が強い性格をもっていますが、発信情報の多くは加工した、あるいはある方向へ偏向させたものであり、ときにはフェイクニュースやデマを連発することさえあります。

さらにSNS上では、政治的思考性が一方に偏った異なるグループができ始めると、それぞれのグループの中で情報が増幅され、グループ間で交わることがない傾向があることが指摘されています [4]ツイッターフェイスブックの過激な言説を無批判に受け入れること自体がちょっと信じがたいですが、SNSにはそういう性質があるということです。

2018年6月24日、麻生太郎財務相は、新潟県新発田市での講演で「(30代前半までの若い有権者層が) 一番新聞を読まない世代だ。読まない人は全部自民党(の支持)だ」と述べました [5]自民党を中心に内閣が構成されていることを見れば、彼の意見はそんなに外れてはいないと思います。

私は、いろいろな機会を通じて大学生および大学院生に「なぜ新聞を読まないのか」と訊いてきました。主な理由として返ってきたのが「お金がかかるから」、「紙媒体を読むのが面倒だから」、「最初からネットを見る習慣しかない」、「新聞の情報は信用できないから」というものです。

前三つの理由はまあまあわかるとして、最後の理由は「うん?」という感じでしたので、「なぜ新聞は信用できないと思う?」と再度訊いたところ、「ネットでそう言っている」、「周りがそう言っている」、「新聞は反日的」と聞いて苦笑したことが多々あります。

日々、専門情報の探索・検証を厳密に行なうように教育されている大学院生でさえ、専門外や一般社会のことになると、文責署名がなく、運営実体も不明なヴァイラル・メディアの情報を信じている状況はよく理解できませんでした。


4. 内閣を支持する、支持しないの理由にみる世代間の違い

上記のように、インターネットやSNSの利用性の高い男性若年層ほど、内閣支持率が高いと言えそうですが、内閣を支持する理由と支持しない理由を見ると、少しまた事情が変わってきます。

図3は内閣を支持する理由を表したものです。支持する理由の第1位は「他よりよさそう」というもので、これは男女間でも年齢層間でもあまり違いはありません。つまり、内閣を支持すると答えている人でも、半数の人は消極的支持という姿勢によるものだということが見えてきます。

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図3. 男女別および年齢層別にみた内閣を支持する理由の百分率(朝日新聞RDD調査データ [2]に基づいて作図)

ところが、内閣を支持しない理由を見ると、きわめて興味深い傾向が見られます。図4に示すように、男性では全ての年齢層において理由の第一位が「政策の面」であり、女性でも多くの年齢層においてこれが第1位になっています。そして、よく見えると、男女とも若い世代ほど「政策の面」を理由にしていることがわかります。

他の理由として、「自民党中心の内閣だから」とか「安倍さんが嫌だ」というのは、むしろ女性の高齢層に多くみられます。

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図4. 男女別および年齢層別にみた内閣を支持しない理由の百分率朝日新聞RDD調査データ [2]に基づいて作図

図4のデータから見える特筆すべき点は、インターネットやSNSの影響を強く受けた若年層による内閣支持の傾向がある一方で、若い世代の1/4の層は、冷静に内閣の政策面を評価して、内閣不支持を打ち出していることにあります。すなわち、若者の世代においてはとりあえず現状肯定型」が大勢であるとしても、情報を冷静に捉え、現政権に批判的な一定の層も存在するという、二極化の傾向が見えることです。

現政権に批判的な若者も、当然ながらインターネットやSNSを情報源としているはずですが、おそらくはメディア活用能力(メディア・リテラシー)や事実検証(fact checking)の力により長けていると考えられ、とりあえず現状肯定型」にはなり得ないのでしょう。


おわりに

今日7月20日、「山崎拓氏に独占取材『安倍一強』支えるネット世論を斬る」というネット記事が出ました [6]。この記事の内容はおおむね当たっていると感じるものの、「今はテレビ文化になっている。テロップなど視覚で物事を捉えてしまい、頭脳で考えない。それが若者の通弊で、政治とも関係している」という下りは、ちょっと違うかなと思います。

なぜなら、メディアのなかでテレビの利用性が最も高い女性は、年齢層に関わりなく、男性よりも内閣支持率が低いからです。テレビにはライヴ感があるので、そこから得られる印象を取捨選択する女性の能力が高いのでは、と考えてしまいます。メディアの利用性だけではなく、情報の選択圧による影響の受け方にも男女間で違いがある気もします。

そして、インターネットやSNSの影響を受けた、男性若年層による内閣支持の傾向がある一方、現政権の現状に危機感を抱く一定少数の若者がいることも浮き彫りになった、今回の調査・分析結果であったと思います。

インターネットやSNSに感化されたマジョリティー若年世代と、そうではないマイノリティー若者世代を分けているものは何か、興味のある課題です。


参考文献

1. 朝日新聞DIGITAL: SNS参考にする層ほど内閣支持率高め 朝日世論調査. 2018年7月16日. https://digital.asahi.com/articles/ASL7H5Q0HL7HUZPS009.html


3. BUSINESS INSIDER JAPAN: 「やっぱり安倍政権しか選べない」東大生はなぜ自民党を支持するのか. 2017年6月27日. https://www.businessinsider.jp/post-34482

4. Brady, W. J. et al: Emotion shapes the diffusion of moralized content in social networks. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 114, 7313-7318 (2017). http://www.pnas.org/content/114/28/7313

5. 産経ニュース: 麻生太郎副総理「新聞読まない人は全部自民党支持だ」政権批判に不満? 2018年6月24日. https://www.sankei.com/politics/news/180624/plt1806240012-n1.html

6. Yahoo!ニュース:ITmediaビジネスONLINE 山崎拓氏に独占取材「安倍一強」支えるネット世論を斬る. 2018年7月20日. https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180720-00000036-zdn_mkt-bus_all&p=1