Dr. Tairaのブログ

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プラスチック汚染-5


新聞、テレビ、インターネットなどのメディアを通じて、毎週のようにプラスチックごみ汚染の問題が報じられています。それだけこの環境問題が深刻だということです。このブログでも連続して取り上げてきています。

国際連合によると、海洋に流出しているプラスチックごみは年間800万トン超です。恐ろしいことに、このままのペースでいくと、2050年までに海洋のプラスチックごみの量は魚よりも多くなる、と国連環境計画(UNEP)は予測しています。

とくに、長さ5 mm未満のマイクロプラスチックと呼ばれるプラスチックごみの汚染に注目が集まっています。なぜなら、海中の有害物質を吸着する性質を持つことや、食物連鎖に取り込まれることによって、海洋生物や海洋生態系に大きな影響を及ぼす可能性があるからです。

マイクロプラスチックを体内に取り込んだ魚介類が食卓にあがることで、私たちの体内にも取り込まれている恐れがあります(図1)。

6月14日のNewsweek日本版は、ムール貝におけるプラスチックごみ汚染の調査結果を取り上げていました [1]。 すなわち、英ハル大学とブルネル大学ロンドンの共同研究チームが、英国のムール貝を対象にマイクロプラスチックの含有の有無を調査したところ、すべての検体で汚染が見つかったということです [2]

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図1. Newsweekの記事 [1] の中で紹介されている動画のトップページ

Newsweekはこれ以外の調査におけるプラスチックごみ汚染についても、以下のように紹介しています。

●ベルギー・ゲント大学の研究 (2014) [3]
・養殖の二枚貝ムール貝、牡蠣)にマイクロプラスチックを検出

ポルトガルリスボン大学の研究 (2015) [4]
ポルトガル沿岸で水揚げされた26種263匹の魚について調査したところ、約20%にマイクロプラスチックを検出

●ベルギー・リエージュ大学の研究(2017) [5]
・アンチョビなどのニシン目の肝にマイクロプラスチックが含まれていた
・消化器官から体内の他の部分にこれが移動している可能性を示唆

●マレーシアプトラ大学の研究(2018)[6]
・13カ国20ブランドのサーディン缶とニシン缶についてマイクロプラスチックの含有の有無を調査し、そのうち4ブランドからマイクロプラスチックを検出

これらの食用の魚介類を通じて、実際に人間の身体にどのくらいプラスチックが摂取されているかというと、欧州の消費者は年間最大1万1000粒のマイクロプラスチックを食べている計算になるそうです [2]

海水を製造材料とする食塩(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16204435.html)や、ボトル飲料水(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16219530.html)もマイクロプラスチックで汚染されていることは前のページに述べたとおりです。

こうなると、私たちは海や水環境を由来とする、ほとんどすべての食材・飲食品からマイクロプラスチックを食べていると考えた方がよさそうです。すなわち、微量ながら毎日のように石油を食べていることになります。

WHOは、マイクロプラスチックの摂取が人間にどのような健康リスクをもたらすのかについてはわからないと述べながらも、懸念事項であると警告しています。マイクロプラスチックによる海洋汚染は、海洋生態系の保全という観点のみならず、私たちの生活と健康を守るうえでも、早急に取り組むべき課題であることは論を待たないでしょう。日本の取り組みの遅れ(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16336526.html)が危惧されます。


参考文献

1. Newsweek 松岡由希子:「魚や貝を通じてプラスチックを食べている」という研究結果が明らかに. 2018.6.14 https://www.newsweekjapan.jp/stories/woman/2018/06/post-10378.php

2. Li, J. et al.: Microplastics in mussels sampled from coastal waters and supermarkets in the United Kingdom.Environ. Pollute. 241, 35-44 (2018). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0269749118302197?via%3Dihub

3. Van Cauwenberghe, L. and Janssen, C. R.: Microplastics in bivalves cultured for human consumption. Environ. Pollut. 193, 65-70 (2014). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0269749114002425?via%3Dihub#!
Author links open overlay panelLisbeth

4. Neves, D. et al.: Ingestion of microplastics by commercial fish off the Portuguese coast. Mar. Pollution. Bull. 101, 119-126 (2015). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0025326X15301582?via%3Dihub#!

5. Collard, F. et al.: Microplastics in livers of European anchovies (Engraulis encrasicolus, L.). Environ. Pollute. 229, 1000-1005 (2017). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0269749117319024#!

6. Krami, A. et al.: Microplastic and mesoplastic contamination in canned sardines and sprats. Sci. Total Environ. 612, 1380-1386 (2018). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969717323471?via%3Dihub#!