Dr. Tairaのブログ

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学生の気質の変化と世論調査


私は過去20年余り大学で教鞭をとってきました。非常勤も含めるとこの間授業を行なった大学は国公立、私立も含めて10以上になります。対象となる学生の年齢構成は大学院も含めて概ね18〜27歳になります。もちろん社会人入学のケースもありますのでそれ以上の年齢の学生も当然います。

この間、全体的に学生の気質というか、勉学・研究への取り組み方、キャンパスライフの送り方、社会への関わり方が変化してきたことを感じます。とくに2011年の3.11以降から、この変化は加速化してきたように思います。

具体的に言えば、その一つとして、授業中、授業後に質問をする学生、あるいはオフィスアワーに居室に訪ねて来て質問をしたり、雑談をする学生が少なくなりました。とくに男子学生にその傾向が強く、最近では訪ねてくる学生は圧倒的に女子学生でした。

研究室所属の学生については、研究の進捗状況について定期的な月報(A4版1–2枚程度)を提出してもらっていましたが、達成率に関する自己評価がだんだん無機的になってきたように思います。たとえば、以前は評点が90点であったり50点であったり結構変動していて、その理由も丁寧に書かれていたように思いますが、年を経るにしたがって固定的な点数をつける学生が多くなりました。

また、ランチタイムや居室での雑談で、とくに留学生は社会情勢や政治・経済の話題をしばしば口にすることがあり、日本人の学生もそれに加わりディベートすることもありましたが、とくにこの5年間で学生とそのような話をした記憶はありません。

学生同士の話を聞いても著しい変化が見られます。勉学や研究の話は別として、以前はもっと広い話題についてお互い議論していたように思いますが、最近は単なるおしゃべり、単語のやりとりにしか聞こえません。グループで集まっていても全体で話し合っているのではなく、個別的におしゃべりしていることがほとんどです。

学生だけではなく、教員同士の、たとえば飲み会などの話題でもそうです。私が大学に赴任した頃にはいろんな話をしていたように思うのですが、最近は若い先生と話しても話題が幅が小さくなったように感じています。

このように私が感じるのはもちろんそれだけ私が年取ったせいもあります。一方で、学生との意思の疎通が希薄になり、一時は私の教育が悪いせいかと思ったこともありますが、発達障害の学生、女子学生、留学生とのコミュニケーションについてはあまり変化を感じません。

時代の変化と言ってしまえばそれまでですが、とくにスマートフォン世代になって、インターネットから自分の興味のある情報しかとらなくなり、思考の範囲が狭くなり、多様性がなくなってきている気がします。つまり、好奇心を外へ向けることがなく、冒険をしなくなり、安全な自分の世界の中でだけで過ごしている感じです。

それにしても、留学生や女子学生に比べて男子学生の変わりようが著しいのはなぜでしょうか。そう思うのは自分だけか、何人かの同じ年代の教員に尋ねたところ、やはり同じように感じている人が多いようです。

そこで、このような状況をより客観的な情報で確かめたいと思っていたのですが、昨今のマスメディアで報道される世論調査や国政選挙で若い人たちに特徴的な傾向があることを思い出しました。あらためて、最新の世論調査で眺めて見ることにしました。

朝日新聞の最新のRDD世論調査のデータ(2018年4月)[1] をダウンロードし、その数値データを基にグラフ化してみました。朝日の調査を選んだ理由は、探した限りでは、他のメディア世論調査には年齢別のデータが見当たらなかったからです。

まず、図1に男女別、年齢層別の内閣支持率を示します。男性では見事に年齢層が若いほど内閣支持率が高く、男性18-29歳区では61%に達しています。男性全体では40%の支持率ですが、若い層がこの値を押し上げていることがわかります。一方、女性では年齢層による内閣支持率にあまり変化はなく、全体で23%と低いです。

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図1. 男女別、年齢層別の内閣支持率

図1を見ると女性全体と男性の60歳以上の年齢層で似たような内閣支持率の傾向になっていることがわかります。

図1は年齢層別の比率で表していますので、実際の人口の絶対数を反映しているとは限りません。そこで、国の統計データから日本の人口の年齢層比率を出して見ることにしました。図2に示すように、男性よりも女性の方が若干人口が多く、団塊の世代(60代後半から70代前半)とその子供の世代(40代)が多いことがわかります。

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図2. 日本の人口における年齢構成比率(男女別に示すが、両者を合わせて100%にしてある)

図2に基づいて、内閣支持率について似た傾向を示した女性全体と男性60歳以上の層を合わせると、日本の人口の約70%を占めます。上記世論調査の有効回答数が1,000人程度なので、その回答数が日本全体数の年齢構成を反映していない可能性もありますが、とりあえずこの人口70%区と男性18-29歳区の内閣支持率を比較してみました。

図3に示すように、内閣支持率26%が日本の人口70%の傾向になります。それに対する人口約7%に相当する男性18-29歳区の支持率は2.3倍になり、大きく異なることがわかります。日本の70%という大多数に対してこの7%、あるいは30-39歳層も合わせると約15%に相当する部分が大きく異なる理由は何でしょうか。

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図3. 男性18-29歳区および人口70%区(全女性+60歳以上男性)の内閣支持率の比較

さらに、男女別、年齢層別の政党支持率図4に示します。これは内閣支持率ほど大きな違いはなく、男女ともに全年代層で自民党が手堅く支持を集めています。とはいえ、男女別の自民党支持で見ると、男性41%に対して女性26%と低くなります。

興味ふかいのが、18-29歳の層です。男性では自民党支持が52%と高く、支持政党なしが19%と全体の無党派層と比べても低くなっていることです。野党第一党立憲民主党に至ってはわずか2%の支持しかありません。一方で、同年代の女性では自民支持は14%、支持政党なしは59%ときわめて高くなっています。同じ年代の若者でも男女で傾向が異なります。

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図4. 男女別、年齢層別の政党支持率

女性の18-29歳、30-39歳の層で無党派が6割前後もいるのは特徴的ですが、これらの層が現政権に対して無関心かというとそうでもなく、図には示していませんが無党派全体では77%が内閣を支持しないと回答しています。

自民党中心の与党と野党の支持の傾向をより明確にするため、与党支持率と野党支持率の比率を男女別、年齢層別に図5に示します。

女性では、30-39歳層を除いて与党支持者は野党支持者の2倍前後しかいません。おそらく30-39歳層は有効回答数が少ないバイアスがある可能性があります。一方で、男性では若い層ほど自民党支持が多い傾向が顕著に見られます。18-29歳層に至っては自民党支持者は野党支持者の7倍もいます。

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図5. 男女別、年齢層別の与党/野党支持率比

私が過去大学で教えてきた学生は、現在で言えば40代から20代の層になります。もちろん昔から政権与党、野党支持の学生はそれぞれいたわけですが、支持する理由についてお互いディベートができるくらいの気概が、少なくとも一部の学生にはあったように思います。別に政治的なことでなくても、時事ネタ、スポーツ、芸術などについて話す機会はけっこうありました。

今はそのような光景も見かけなくなりました。今の男性の若年層に見られる特徴的な傾向は、私が感じてきたとくに男子学生の気質や生態の変化を表しているのでしょうか。


参考文献

1. 朝日新聞DIGITAL: 世論調査―質問と回答〈4月14、15日実施〉2018年4月15日