Dr. Tairaのブログ

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スーパーで手に入る純水の落とし穴

スーパーに行くと、RO水、純水、クリアウォーターなどと銘打った飲料水をタダで、あるいは安く提供しているところがあります。私のウチの近くのスーパーにもその装置が置いてあり(図1A)、専用の容器が売られています(図1B)。健康で安全な水という印象があるためか皆さんに人気のようで、今日も何人かの人が容器に満杯にして持って帰るのが見られました。
 
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図1. スーパーで供給されているRO膜-純水の装置(A)と専用の容器(B)
 
これらの名称の水は、逆浸透膜(reverse osmosis [RO] 膜)と呼ばれるフィルターを通してつくられています。RO膜はフィルターの中で最も緻密で、小さな分子だけ圧力下で通過させます。RO膜に開いている孔はわずか0.1 nm(=0.0001マイクロメーター)ときわめて小さいため、原水中に含まれる微生物、ウイルスはおろか、ほぼすべての混入物・溶解物の分離が可能です。したがって、正しく純水と呼ぶに値する衛生学的かつ化学的に安全な水ができるわけです。
 
このようなRO膜を通した水道水は料理にも適しています。下記のように水道水には消毒のための塩素が残留しているわけですが、この塩素はビタミンなど栄養を壊す働きがあります。ゆえに水道水を直接使って料理すると栄養が損なわれる可能性があります。RO膜を通した水では塩素が除去されているので、この意味では役に立っているわけです。
 
日本の水道水は水道法により遊離塩素などで消毒を行い、給水栓水での残留塩素量が遊離塩素で0.1mg/l以上と定めています。すなわち、水道水には塩素が入っていることが当たり前であり、そのおかげで日本の水道水は安全であると言えるわけですが、スーパーで供給される純水は、実はこの消毒の効果が取り除かれています。そのことに気づいていない人は結構多いのではないでしょうか。
 
もちろん、RO膜を通した純水は微生物もウイルスも完全に除去されているので、汲んだ後に密栓しておけばしばらくは安全です。しかし、家庭で使う度に開け閉めしている間に、手についたバクテリアや空中のチリ・ホコリなどが入り込み、純水の中でそれが増殖する可能性さえあります。
 
私は、水道水とスーパーで汲んできた純水をポリ容器に入れて並べ、毎日同じように使って、1週間の間にそれらの中でどのくらいバクテリアが増殖するか調べたことがあります。そうすると毎回わずかではありますが、純水の方でバクテリアが増殖しやすいことを認めました。純水中でもバクテリアは増殖するのです。

図2に水道水(図2A)と純水(図2B)との間で最も差が見られたときの結果(サイバー・グリーンでバクテリアのDNAを染色したときの蛍光顕微鏡画像)を示します。このときの純水中の菌数は1 mL当たり950個に及びました。
 
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図2. 1週間、汲み置き・使用した水道水(A)と純水(B)の中に含まれるバクテリアサイバー・グリーン染色による蛍光顕微鏡画像(scale = 20 μm). 菌数の差をわかりやすくするために同じ割合で試料を濃縮してある. サイバー・グリーン染色によるバクテリアの検出については別ページを参照のこと.
 
このようにRO膜を通した純水は消毒効果がもはや消えているので、早く消費してしまうことが重要です。そのために清潔な専用の容器も売られているわけです。大部分のスーパーでは、3日以内に消費完了のこと、と勧めているようです。
 
                   
カテゴリー:生活と科学