Dr. Tairaのブログ

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代替甘味料

はじめに
 
先日、町内会の会合に出席した際、市販の清涼飲料等が配られました。私は清涼飲料を飲む習慣がないので昨日までそれを忘れていたのですが、もらったものの一つ(カルピスのアミール)をあらためて見たところ、3種類の代替甘味料人工甘味料)が使われていることに気づきました。それらは、スクラロースアスパルテーム、そしてアセスルファムKです(図1)。
 
考えてみれば、清涼飲料品のみならずスーパーで売られているお寿司や弁当などにも、すいぶんと代替甘味料が添加物として使われています。カロリーオフと称する飲料製品には、基本的に代替甘味料が入っています。そこで少し代替甘味料について考えてみました。
 
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図1. 代表的な代替甘味料と市販飲料品の表示
 
 1. 代替甘味料の意義
 
私たちが食事をした時に感じる甘味は基本的に天然の糖に由来するものです。具体的にはショ糖(=砂糖、スクロース)やその構成成分であるブドウ糖グルコース)と果糖(フルクトース)です。これらの糖は私たちのエネルギー(カロリー)源かつ体を作る材料として必要なものですが、摂りすぎると肥満の原因になり、また虫歯の原因にもなる物質です。そのような中で、カロリーオーバー防止や虫歯予防などの名目で登場して来たのが代替甘味料です。
 
厚生労働省のe-ヘルスネットのHP [1] を見ると、世の中に出回っている代替甘味料についての説明があります。そこでも代替甘味料を使う意義として、糖尿病でも安心して食べられる、肥満対策に用いる低カロリーのダイエット用、むし歯の原因にならない、などのメリットが説明されています。
 
とはいえ、代替甘味料は天然の糖に比べてきわめて安価なので、メーカーの立場から言えば、むしろその経済性から代替甘味料を販売していると言った方が的を得ているかもしれません。
 
代替甘味料の安全性についてはさまざまな議論があり、腸内細菌や糖代謝に影響するような知見も得られているようです [2]。マウスを使った実験では、人工甘味料添加の食事により、腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が起こり、ブドウ糖不耐性になったと報告されています [3]。しかしながら、少なくともサッカリン以外の市販品については、積極的に安全性を否定するような科学的根拠は今のところないというのが主流のようです [4]
 
2. 代替甘味料の種類
 
ショ糖(砂糖)の代替として使われている甘味料としては、以下の三つの大別されます。
 
1. 天然物
・果糖
・トレハロース
・マンニトール
2. 天然物から抽出または合成されるもの
・ステビオシド
3. 化学合成

この中でブドウ糖、トレハロース、キシリトールなどの天然甘味料は私にも馴染み深いものです。一方、カロリーオフとして出回っている代替甘味料は、天然物から作られるものや化学合成物で、アスパルテームスクラロース、ステビオシド(ステビア)、アセルファムが主力になっています。
 

ステビアStevia rebaudiana)は、パラグアイをはじめとする南アメリカ原産のキク科ステビア属の多年草です。甘味成分として、ステビオシドなどのテルペノイドの配糖体を含んでいるため、代替甘味料として用いられています。

実際にステビアの葉っぱを噛んでみると甘く感じます。スーパーで売られているお寿司や弁当の表示を見ると、添加物としてステビアが使われている場合が少なからずあります。

 
スクラロースは、ショ糖の水酸基の一部が塩素(Cl)で置き換わったものです
図1)。この代替甘味料の特徴は、ショ糖の構造を基本としているものの自然界には存在しない物質なので、生分解性が極めて低い(環境中での生残性が高い)ということが問題としてあります。私たちが摂っても代謝されず、また腸内細菌でも分解されず、排出されるとされています。すなわち、甘味としては感じるけれでも、まったくのカロリーオフということが実現できるわけです。有名なところではダイエットコーラに使われています。
 
インターネット上ではスクラロースの人体への害の可能性についての記事がありますが、直接の害を具体的に科学的に示した論文はないようです。生体内で代謝されず、蓄積もされないので、通常は害は考えにくいということになります。
 
もし人体への害があるとすれば、スクラロースそのものよりもそれを摂取し続けた場合の副次的影響でしょう。たとえば、腸内細菌への影響や全体的なエネルギー代謝への影響で、これらに関するいくつかの学術論文も見受けられます。しかし、いずれにせよ、詳細は今後の研究を待つしかないと思います。
 
今のところより確実に言えることは、環境中への生残性が高い [5–7] ということで生態学的な影響が危惧される物質です。下水処理場においても検出されていますが、これが意味することは微生物の分解を受けない、あるいは大量に使用されているために検出されるということです。これが環境中で蓄積していくと果たしてどうなるのでしょうか。
 
 
アスパルテームはパルスイートの商品名で販売されている代替甘味料で、テレビのCMでもカロリーオフとして紹介されています。基本構造は、アミノ酸であるフェニルアラニンアスパラギン酸が繋がったものです(図1)。アスパルテームを使用した食品や添加物には「L-フェニルアラニン化合物である旨又はこれを含む旨」の表示義務があります。図1に示すようにカルピスのアミールにもこの表示があります。
 
経口摂取されたアスパルテームはほとんど分解も代謝も受けずに体外に排泄されると言われています。分解されてもアミノ酸になるわけですから、害になることは考えにくいです。
 
分解時には微量のメタノールも出てきますが、トマトや柑橘類ジュースに含まれるものと比べるとはるかに少ない量です。というわけで、安全性の観点から当初取り扱いを制限してきた生協もそれを解除しています。
 
しかしながら、アスパルテームの健康や腸内細菌への影響については引き続き研究されています[8]。腸内細菌叢等に対して負の影響を示すデータもあり、注意して見て行く必要がありそうです。
 
 
アセスルファムK図1)は、スクラロースアスパルテームと同様に非う蝕性なので、虫歯の原因にならない甘味料です。アスパルテームと組み合わせると砂糖に近い甘味になると言われています。安全性は一応保証されていますが、腸内細菌への影響や副次的影響があるかどうかについては、ほかの人工甘味料の場合と同じです。
 
おわりに
 
目下のところ、大部分の人工甘味料は安全だと言われています。しかし、脳は甘さを感じるのに腸の中では分解されるべき甘味物質がないとなると、脳と腸内細菌(腸内マイクロバイオーム)との相互関係に影響を与えはしないか?という疑問は当然出てきます。マウスを使った実験で、腸内細菌叢の異常とブドウ糖糖不耐性を生じたという結果[3] は気になるところです。
 
さらに、スクラロースアセスルファムKのように生分解性(微生物による分解)が低いことは、環境への影響については注視していく必要がありそうです。
 
引用文献・記事
 
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「代用甘味料の利用法」:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-013.html
 
 
[3] Suez, J. et al.: Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature 514, 181-186 (2014). https://www.nature.com/articles/nature13793
 
[4] Magnuson, B. et al.: Critical review of the current literature on the safety of sucralose. Food Chem. Toxicol. 106, 324-355 (2017). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278691517302818?via%3Dihub
 
[5] Soh, L. et al.: Fate of sucralose through environmental and water treatment processes and impact on plant indicator species. Environ. Sci. Technol. 45, 1363-1369 (2011). https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/es102719d
 
[6] Torres, C. I. et al.: Fate of sucralose during wastewater treatment. Environ. 
Eng. Sci. 28(5), Apri. 27 (2011). https://doi.org/10.1089/ees.2010.0227
 
[7] Robertson, W. D. et al.: Degradation of sucralose in groundwater and 
implications for age dating contaminated groundwater. Water Res. 88, 653-660 (2016). https://doi.org/10.1016/j.watres.2015.10.051
 
[8] Palmnäs, M. S. A. et al.: Low-dose aspartame consumption differentially 
affects gut microbiota-host metabolic interactions in the diet-induced obese 
rat. PLoS One 9(10): e109841 (2014). https://doi.org/10.1371/journal.pone.0109841