Dr. Tairaのブログ

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マスコミが報じない東アジアの中の日本の流行状況

はじめに

新聞、テレビなどのマスコミは、連日、新型コロナウイルス感染症COVID-19の感染急増について報道しています。自国における感染拡大で、そこにばかり目が向いている状況ですが、ほとんど報じられていないのが、東アジアの周辺の諸国と比較した日本の流行状況です。

周辺国との流行状況を比較すれば、季節や地域性、ファクターXなどの影響を考慮することなしに、日本の感染対策の良し悪しを評価することができるでしょう。今さら感もありますが、worldometerやOur World in Dataの集計データを引用しながら、考えてみたいと思います。

1. 東アジアでの流行状況

まず、東アジア各国・地域における、11月21日時点での感染状況を比較してみましょう。表1に示すように、日本は累積陽性者数で東アジア3位につけています。1、2位のインドネシアとフィリピンは、効果的な感染症対策がなく、医療機能不全状態に陥っている国で、言わば別格です。そうなると、東アジアの先進諸国・地域のなかでトップに躍り出る、不名誉な位置にあるのが日本です。百万人当たりの死者数検査陽性率も、他国と比べると高くなっています。

表1. 東アジアの国・地域における新型コロナウイルス感染症の流行状況(2020.11.21時点、出典:worldmeter)

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2. 陽性者数

現在の流行状況がわかりやすいのが、毎日の新規陽性者数の推移です。表1の中から、日本および感染を比較的抑えられている5カ国(中国、韓国、シンガポール、タイ、ヴェトナム)と一つの地域(台湾)を抜き出して、それを比べたのが図1です。日本はいわゆる第3波の感染拡大が訪れ、陽性者が急増しています。それに対して、他国・地域では夏以降感染拡大は抑えられており、韓国でわずかの増加が見られる程度です。

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図1. 日本および東アジア5カ国・1地域における新規陽性者数の推移(3月22日〜11月20日、出典:Our World in Data).

つまり、日本では寒い季節になったから必然的に感染者が増えたということではなく、対策のまずさから感染拡大を許し、それに季節(気温低下、乾燥)という要因が重なって、余計に増えているということが言えるでしょう。

累積陽性者数で比べた場合も、日本の突出ぶりがよくわかります。他国・地域においては陽性者はほとんど増えていないか、微増なのに対し、日本は7月後半から増加し続けています。

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図2. 日本および東アジア5カ国・1地域における累積陽性者数の推移(3月22日〜11月20日、出典:Our World in Data).

3. 死者数

表1にあるように、日本の現在の死者数は現在1969人ですが、すでに、6月20日以降の死者数が、4月をピークとする第1波のそれを超えました。第1波と比べて、重症数も死者数も抑えられているというメディアの報道は、実状を正しく伝えていないように思います。

東アジアのなかでの百万人当たりの死者数の推移を比べると、日本の断トツぶりが顕著です(図3)。ちなみに図3に見える薄い線は、全世界の国々の状況を示しています。ヨーロッパや南北アメリカでは、日本とは比較にならないくらい人口当たりの死亡率が高いことは、よく知られています。

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図3. 日本および東アジア5カ国・1地域における百万人当たりの死者数の推移(出典:Our World in Data).

日本では8月以降、毎日死亡する人が出ており、次第に増えています。死亡の絶対数でいえば、まだ中国が日本の2倍以上ありますが(表1)、来春までには日本が中国を追い抜くことも考えられます。医療崩壊が起これば(その危険性が高まっていますが)、あっという間です。

4. 検査数と陽性率

日本では、PCR検査を含めた検査数が少ないことはずうっと言われ続けてきました。実際にどうなのか、1人の陽性者を探し出すのに費やした検査数で見てみましょう。図4に示すように、日本と上記の5カ国・1地域で比べた場合、日本は最低になります(ただし、中国ではあまりにも検査数が多くて正確な統計情報がなく、グラフが途中で切れています)。

これは、日本では少ない検査数で効率的に陽性者を見つけているということではなく、検査のカバー率が低いとみなすのが妥当です。すなわち、見逃している陽性者がそれだけ多いということになるでしょう。

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図4. 日本および東アジア5カ国・1地域における累積陽性者数当たりの累積検査数の推移(3月22日〜11月20日、出典:Our World in Data).

検査拡充が叫ばれ、事実、第1波の頃と比べて大幅に検査数が増えた日本ですが、周辺国と比べればやはり少ないということになります。厚生労働省の統計を見れば、やっと1日3万件を超えたところです。

検査数が少なければ、検査陽性率は高くなります。図5に示すように、周辺国と比べた中で日本は最も陽性率が高くなっています。現在の累積陽性率は4%を少し切った値ですが(図5上)、これでも圧倒的に高いということになります。直近の7日移動平均では8%を超えています(図5下)。

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 図5. 日本および東アジア5カ国・1地域における累積検査陽性率(上)および日ごとの検査陽性率(7日移動平均、下)の推移(3月22日〜11月20日、出典:Our World in Data).

5. 政府の対応

菅首相は、今日、政府分科会の提言を踏まえ、これまでの知見に基づいて感染拡大防止に向けた対策を強化し、迅速に実行すると述べました [1]。具体的には、GoToトラベル事業については、感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止するなどの措置を導入し、GoToイート事業については、食事券の新規発行の一時停止やポイント利用を控えることについて検討を要請するとしました。

もともと感染が収束したら始めるとしていたGoTo事業ですが、7月下旬から強引に導入し、推進してきたのは政府であり、それにお墨付きを与えたのは政府分科会です。見直しのタイミングとしては遅きに失した感があり、両者の責任は重大です(→為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く)。しかも、菅首相はGoToの一時停止の時期も対象地域もまだ示していません。

また、今日、首相官邸の以下のツイートを見て、私は気が抜けてしまいました。

医療施設や介護施設等において、陽性者が確認された場合には、入所者・従事者全員に、直ちに国の費用負担で検査を実施します」とありますが、これは当たり前のことであり、何を今さらという感じがします。もし言うなら、「(陽性者が確認されなくても)医療施設や介護施設等で定期的にスクリーニング検査をする」ということでしょう。それでさえも、遅すぎる感があります。定期スクリーニング検査のタイミングは遅くとも9月だったと思います(→為政者と専門家の想像力のなさが感染拡大を招く)。

菅首相は、さらに、国民のみなさんの協力が不可欠であり、あらためて、会食時を含めたマスクの着用、手洗い、3密の回避、基本的な感染対策の徹底をお願いする、と述べました。しかし、周辺の国々が徹底的な検査システムの導入やICT活用などの近代的戦略で封じ込めに成功しているのに対し、日本ではマスク会食という宴会芸のようなことを含めて、国民の自助に頼っている時点ですっかり後進国に成り果てています。

国民レベルではすでに十分に対策をとっており、さらに対策を国民に押し付けても、もはや感染拡大を抑制できるものでもありません。政府による行動制限や営業制限などの、より強力な対策が必要なのです。このままでは、やがて医療崩壊が起きます。

おわりに

今の感染拡大は、夏に流行が収まらないままに、国策としての感染症対策を施すことなしに、無理に経済を回そうとし、それを感染対策と経済活動の両立という建前で強引に進めてきた結果であると言えます。その日本の無策ぶりは、東アジアの周辺国との状況比較によって、余計あらわになるということでしょう。

そしてマスコミはそれを報じることもなく、政府の国民自助戦略をそのまま垂れ流している状況です。

引用記事

[1] 朝日新聞DIGITAL: GoTo見直し「国民の命守るため」 菅首相の発言全文. 2020.11.21. https://www.asahi.com/amp/articles/ASNCP5RZSNCPUTFK00F.html?ref=tw_asahi&__twitter_impression=true

            

カテゴリー:感染症とCOVID-19